JR熊本駅前アミュプラザの松竹マルチプレックスシアターズの映画館、熊本ピカデリーの内装計画。2019年のコンペから2年を経て、2021年春オープン。
*竣工写真整理中

熊本ピカデリー/熊本の映画館
KUMAMOTO Piccadilly
KUMAMOTO Piccadilly
JR熊本駅前アミュプラザの松竹マルチプレックスシアターズの映画館、熊本ピカデリーの内装計画。2019年のコンペから2年を経て、2021年春オープン。
*竣工写真整理中
●集うことの意味について
コンペを経て、紆余曲折、基本プランが成り立ちましたが、最終提案の最中にコロナ禍となり、『集う』ことが制限され始め、映画館というプログラムそのものにも懐疑的な時代が到来しました。
もともと映画館は、キネトスコープという覗き穴から映像を見る機械が陳列されている施設、人と映像が、1対1という関係から始まり、時を経て、技術の進化により、大画面のスクリーンのなか、人と映像が1対多数という関係が主流となりましたが、コロナやサブスクリプション等の普及に伴った2020年代、人と映像は、改めて1対1の関係性を築こうとしているように感じていました。
そのような時代、映像を観るために『集う』場所、についてどんな可能性があるのか、その本質は何か、それをインテリアとしてどう解いてゆくべきか、ということがおおきな問い=コンセプトとなっていきました。そうして、『集いの風景』について考えを巡らすようになりました。
●内装について
振り返ると、骨格となる躯体を観察することから、インテリアと映画館を考え始めたように思います。駅ビルの商業施設テナントとして計画されるため、その柱と梁による構造フレームも異常なスケールでその大空間を支えていました。老若男女の集う映画館では、その躯体をより身近に感じていただくことが心地よいだろうし、永く市民に愛される映画館になるだろうと思いました。ですから、できるだけ構造骨格が目立たず、主張せず、来館者の居場所が躯体に寄り添えるように、と計らって、いくつかのダミーとともに空間ボリュームをつくってゆきました。そして、そのボリュームが様々な雑物を絡め纏っていくのが、詳細な設計の展開です。
映画館は、目を引く広告物が主張、点在される傾向にあります。映画館ですので、もちろんそのような娯楽的要素は必須ですが、映画を観ることは、本来、知的欲求や好奇心を満たす、文化的な行為です。それは博物館や美術館でのふるまいに近いと思います。そのように映画館もできる限り、文化的な尺度で整えたい、と考えた結果、広告たちはやんわりとあらかじめ位置を限定させて、美術館の常設展をイメージしながら、規律ある展示のように、そのボリュームに馴染ませることを心がけました。
●大規模空間の設備について
また、大規模テナント特有の設備配置も空間解釈に納めていきました。空調や照明、消防設備がひしめき合うデパートのテナントエリアの天井は、具にしつらえたアイレベルから見上げると、すこし煩雑になっていることが多く、もったいない印象がしていました。そこで、たくさんの必要設備をレイヤー毎に重ねてゆき、微調整しながら壁や床と同じように、天井のボリュームを見いだしていきました。
結果的に、建築躯体、設備、インテリア、広告などの諸要素を等価に扱うことで、ボリュームの中に、隠したり、目立たせたりと、バランスよく絡まり合うよう、解答していきました。
●カラーリングについて
モノクロ映画のような色彩については、松竹のフラッグシップシアター、『ピカデリー』のブランドカラーである白と、熊本の風土の色である黒を挿し色として使用することが要望でした。それには『白いボリュームに穿たれた黒』という図式をつくり、前述の諸要素をモノクロームの風景のなかに浸透させるように設計しました。
漆黒の背景には、来館者をはじめ、設備や広告媒体の集う風景が賑やかしく鮮やかに寄り添い合い、そのまわりには純白の空間が余白として、ふわりと浮かびあがるようなことを期待していますが、その結果は本日以降の、館の風景に映りこむのだろうと、愉しみにしています。