oblaat

oblaat

project others   2021

紙の解像度

サンゲツ壁紙デザインアワード「joy of design」への応募作品。壁紙のデザインコンペである。「寛容さ」をテーマに解答した。

手仕事と寛容さのあいだの表情をつくる。

壁紙を選定するとき、空間に浸透するように、または空間を彩るように、と考えることが多い。前者ではその存在をいかに消し去り馴染むかを考え、後者では壁に絵画を掛けるような感覚で、アクセントに注視する。先日、とある内装で、施工注意表記のある薄口の塗装のような表情をした白クロスを間接照明の袂の壁に施工した。上部から零れ落ちる光の筋が壁を舐めた結果、見る距離や角度によってはうっすらと石膏ボードの継目に施工された下地のパテが浮かびあがった。前述した壁紙の存在を消し去るように考えた結果であったが、間接照明のセオリーや壁紙の注意点を理解しないままに選定した『ミス』であり、慌てて代用のクロスを貼り直し、難を逃れた。

壁紙は安価な新建材として、容易に空間の表情をつくることができる。柄や色の差異、型押しによるエンボスの表情、抗菌や不燃性など機能的な特徴を駆使すれば千差万別の空間に彩ることができるけれど、「紙」という特性上、どこかのっぺりとしていて、下地をさらりと覆い隠してしまう。それは、せっかくの職人の手仕事によって秩序立てられた空間の履歴を、あたかも仕上げだけでリセットしているようで、儚い。その空間が形成されてきた履歴、過程、情報と、壁紙をグラデーショナルに紡ぐ方法がないだろうか。

そこで、下地と共鳴する半透明の壁紙を考えた。具体的にはトレーシングペーパー、硫酸紙、パラフィン紙、薬包紙、グラシン紙、インディアンペーパー、手漉き和紙など、すでにある半透明の紙たちの製法をトレースするように、紙の叩解度の比率で仕立て、透明度の異なる壁紙をいくつかつくる。ほとんど下地が透けないものから、下地をラミネートしているだけのほぼ透明な壁紙まで、半透明壁紙の選定の具合によって、その空間が形成されてきた履歴の調律が可能になる。結果として、下地の様相が仕上げに寄り添い、既存の壁紙以上にその時々のオリジナルな表情が生まれ、デザインの喜びは、無限にひろがっていく。その半透明な壁紙たちは、解像度を上げて観察すれば、途端に紙を製造する過程で描かれたとも言わんばかりのちいさなグラフィックの集積だ。

そのちいさなグラフィックたちで、下地をオブラートし損なうことが『ミス』にとどまらず、職人の手垢のように肯定されてもいい、デザインにおける寛容さのある壁紙をめざした。

data

タイトル
oblaat
title
oblaat

others

portfolio list